「書いて、覚えて、暗唱する」指導で、字と一緒に自信が育つ

硬筆のお手本を手に、指導者の前で俳句を暗唱する子どものイラスト

習字教室に通う生徒さんの中には、教室ではほとんど声を出せない子がいます。作品を見せに来るときも、黙って差し出すだけ。挨拶の声はいつも小さい。発表や音読など、人前で話すことがとても苦手——。

字の練習を見守りながら、「この子の自信になるようなことを、もうひとつ何かできないか」と感じている指導者の方は多いのではないでしょうか。

書楽では、硬筆の課題に俳句や名文のお手本を取り入れ、書いて、覚えて、指導者の前で暗唱するという指導方法をおすすめしています。字の上達と一緒に、声と自信が育っていく——今回は、その理由と教室での進め方をご紹介します。

「書いて、覚えて、暗唱する」とは

やり方はとてもシンプルです。

  1. 硬筆の課題として、俳句や名文のお手本を練習する
  2. 何枚も書いて練習するうちに、その言葉を自然に覚える
  3. 清書を見てもらうとき、指導者の前でその一句・一節を暗唱する

これだけです。特別な教材の時間を取る必要はなく、いつもの硬筆練習に「最後のひと声」が加わるだけ。それでも、続けていくと生徒さんの様子は少しずつ変わっていきます。

硬筆のお手本どおりに一句・一文を丁寧に書くと、同じ言葉を何度もなぞり、何度も目で追うことになります。「覚えなさい」と言わなくても、書き終わるころには言葉が口をついて出るようになっている——書くことと覚えることの相性は、それほど良いのです。

なぜ「名文のお手本」なのか

書楽の硬筆手本には、俳句のほかにも、いろは、小林一茶、百人一首、宮沢賢治「雨ニモマケズ」、「落葉松」、古典、「舞姫」など、声に出したくなる名文を幅広くご用意しています。暗唱の課題にこうした名文をすすめるのには、理由があります。

日本語の美しいリズムが、体に残る

俳句の五・七・五、百人一首の五・七・五・七・七、いろは歌や詩の韻律——名文は、声に出して心地よい日本語の「型」でできています。書いて、声に出して、体でこのリズムを覚えることは、美しい日本語の型をひとつ体に取り込むことです。文章を書くとき、話すとき、その型は一生の財産になります。

短いから、誰でも覚えられる

俳句なら十七音、百人一首でも三十一音。長い詩や文章のお手本も一枚ごとの一節に分かれているので、低学年の子でも練習しながら無理なく覚えられます。「覚えられた」という成功体験を、全員が持ち帰れます。

美しいことばに出会える

「梅が香に」「ちるさくら」——俳句や名文を書くことは、季語や美しい日本語との出会いでもあります。たとえば松尾芭蕉の「よく見ればなずな花咲く垣根かな」。なずなの花を知らなかった子が、帰り道で垣根の足もとをのぞき込む。そんな変化も、名文の課題ならではです。

時代を越えた名文には、声に出す心地よさがある

芭蕉や一茶の句、百人一首の和歌、宮沢賢治の詩——時代を越えて読み継がれてきた言葉は、声に出したときの響きが違います。良い字の手本で書き、良い言葉を声にする。どちらも「本物に触れる」練習です。

暗唱が、声を出せない子を変えていく

この指導方法のいちばんの狙いは、実は字の上達ではありません。

人前で話すことが苦手な子にとって、「自分の言葉で話す」のはとても高いハードルです。何を言えばいいか考え、間違えたらどうしようと不安になり、結局黙ってしまう。

けれど、覚えた一句や一節をひとつ言うのなら、どうでしょうか。

  • 言う内容は決まっている(考えなくていい)
  • 練習で何度も書いた言葉だから、間違える心配が少ない
  • 短い一句・一節だから、すぐに言い終わる

「話す」より、ずっと低いところにハードルを置けるのです。

作品を見せに来たときに一句・一節を暗唱する。指導者が「字も言葉も、どちらも良かったね」と受け止める。この小さなやりとりの積み重ねが、「人前で声を出せた」という成功体験になります。

書楽の教室でも、この暗唱を続けるうちに、人前で話せるようになったり、大きな声で挨拶ができるようになったりする子が増えています。教室に来たばかりのころは指導者の前で声を出せなかった子が、季節がひとまわりするころには、すらすらと暗唱して、少し得意げな顔をする——習字教室だからこそ届けられる成長が、そこにあります。

教室での進め方——そのまま使える5つのステップ

① 生徒さんに合ったお手本を、硬筆課題にする
春には春の俳句を、低学年にはいろはを、高学年には「雨ニモマケズ」や百人一首を——季節や学年に合わせて選ぶと、生徒さんは言葉の意味を実感しやすくなります。

② 練習中は、覚えることを求めない
「覚えなさい」は不要です。何枚か書くうちに自然に覚えていきます。「もう覚えちゃった?」と軽く聞くくらいがちょうどいい距離感です。

③ 清書を見せに来たら、一句・一節を暗唱してもらう
毎回の決まりごとにしてしまうのがコツです。「見せに来るときは、ひとつ言ってから」。儀式のように定着すると、生徒さんは構えなくなります。

④ 字と声、両方を褒める
「はらいがきれいになったね。それに、つっかえずに言えたね」。作品への評価に、声への評価をひと言添えます。暗唱のほうは、上手さではなく「言えたこと」を認めるのがポイントです。

⑤ 言えない日があっても、無理をさせない
どうしても声が出ない日は、一緒に読む、小さな声でもよしとする、今日は聞くだけにする——それで構いません。大切なのは「言わせること」ではなく、「言えた」という経験をその子のペースで積んでいくことです。

書楽の硬筆手本のご紹介

書楽では、書家による手書きの硬筆手本をオンラインショップ(BASE)で販売しています。

暗唱の教材になる手本は、「俳句 春」・「夏」・「秋」・「冬」(松尾芭蕉「よく見ればなずな花咲く垣根かな」など季節の名句15句・15枚組)をはじめ、いろは、小林一茶、百人一首、宮沢賢治「雨ニモマケズ」、「落葉松」、古典、「舞姫」など。いずれも各600円(税込)です。

このほか、ひらがな・カタカナ・かきかた練習といった初級向けのお手本もご用意しています。もちろん、指導者ご自身のお手本や書風での指導も自由です。書楽の手本は「使いたいものだけ」お使いください。

※書楽会員の指導者の方には、会員価格でのご提供もあります。

まとめ——字と一緒に、声と自信を育てる

習字教室で生徒さんが持ち帰るものは、美しい字だけではありません。姿勢、集中力、そして「できた」という自信。「書いて、覚えて、暗唱する」指導は、そこに「人前で声を出せた」という経験を加えてくれます。

道具はお手本ひとつ。明日のお稽古から始められます。教室の生徒さんの、少し得意げな顔をぜひ見てみてください。

書楽は、毎月の競書と昇段級認定で習字教室を支える書道団体です。月刊誌なし・入会金や年会費なし・出品料は毛筆/硬筆 各110円(月)。指導内容やお手本・書風には一切口を出しません。指導者の方へのご案内はこちら、ご質問はお問い合わせフォームからどうぞ。

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