手書きの機会は減ったのに、書いた字はしっかり残ります。冠婚葬祭の記帳、履歴書、宅配の伝票、子どもの連絡帳、会議のホワイトボード。「自分の字が恥ずかしい」と感じる瞬間は、大人になってからのほうが多いかもしれません。
先に結論をお伝えします。ペン字は、大人からでも確実に上達します。 そして、練習しているのに伸びない人の原因は、才能でも年齢でもなく、ほとんどが「小さい字から始めていること」「練習の順番」「見ないで書いていること」の3つです。
この記事では、道具と持ち方から、練習する順番、上達が速くなる習慣、横書きのコツ、どのくらいの期間で変わるのかまで、独学でペン字を練習する方法をまとめました。
大人のペン字が伸びない4つの理由
練習帳を1冊やったのに字が変わらなかった、という方は多いはずです。原因はたいてい次の4つのどれかです。
① なぞり書きだけで終わっている。 なぞり書きは「形を知る」ための作業で、「書ける」ようにはなりません。手がお手本の線に乗っているだけだからです。なぞったら、必ずその隣に、何も見ずに自分で書いてください。ここで初めて練習になります。
② 最初から小さい字で練習している。 字のバランスは、大きく書いて初めて身につきます。大きな字で形が取れるようになれば、小さく書くのは簡単です。ところが逆に、小さい字ばかり練習した人が大きく書こうとすると、バランスが崩れることがほとんどです。大人でも、初心者のうちは大きなマスから始めてください。
③ 普段のスピードで練習している。 字は、ゆっくり書けば誰でも今よりきれいに書けます。練習で身につけるのは「ゆっくり書いたときの正しい形」で、速さはあとから勝手についてきます。急いで書く練習を重ねても、急いだ字が上手になるだけです。
④ 漢字から始めている。 日本語の文章は、7割前後がひらがなです。ひらがなが整うだけで、文章全体の印象は見違えます。逆に漢字だけ練習しても、ひらがなが崩れていれば「きれいな字」には見えません。
もうひとつ付け加えると、練習帳を最初のページから順番に全部やろうとするのも挫折のもとです。必要な字だけ練習して構いません。
道具は3つだけ
高価な万年筆も、専用のペンもいりません。
- ペン:鉛筆ではなく、ペンで書きます。 鉛筆で書いて消すより、ペンで書いて残すほうが上達します。消せないと一画一画を大切に書くようになり、前に書いた字と見比べることもできるからです。おすすめはフェルトペン(太字か細字)。線がはっきり出て、筆圧の強弱も見えます。ボールペンは滑りやすいので、最初には向きません。「ボールペンできれいに書けるようになりたい」という方も、まずフェルトペンで上手く書けるようになってから、ボールペンに移ってください。
- 紙:大きなマス目の練習用紙。初心者は、1枚に8文字の「8マス」から始めてください。大きく書くと字のバランスが身につき、小さい字はあとから簡単に書けるようになります。次の項目に、書楽の8マス練習用紙を無料で用意しました。
- お手本:人が手で書いたお手本を選んでください。パソコンのフォントを印刷しただけのお手本は、一見きれいでも「どこで力を入れ、どこで抜くか」が見えません。線の入り方と抜き方が分かる肉筆のお手本が、独学の先生になります。
練習用紙は、ここから印刷できます(無料)
書楽の教室で使っている8マスの硬筆用紙(B5)と同じ大きさのマス目を、印刷できるPDFにしました。1枚に8文字。大きなマスで、字のバランスを体で覚えるための用紙です。ご家庭や教室での練習に、ご自由にお使いください。
用紙はB5サイズです。印刷するときは、プリンターの設定で「実際のサイズ」(拡大・縮小なし)を選んでください。A4の用紙に印刷しても、「実際のサイズ」なら同じ大きさのマスになります(余白が広くなるだけです)。日付と名前の欄がありますので、月に1回の「同じ文字を書いて残す」練習にもそのまま使えます。
印刷できない方や、印刷するのが面倒な方は、同じ用紙を書楽のオンラインショップで硬筆用紙 8マス(100枚セット)として販売していますので、そちらをお使いください。
持ち方と姿勢。ここを直すだけで線が変わる
- 持ち方:親指・人差し指・中指の3本でペンを支え、ペン先から3cmほど上を持ちます。ペンは60度くらいに倒し、握りしめないこと。卵を包むくらいの力で十分です。強く握ると指が動かなくなり、線が硬くなります。
- 筆圧:「紙に押しつける」のではなく「紙に置く」感覚で。筆圧が強い人ほど、字が重く見えます。
- 姿勢:紙を体の正面に置き、背筋を伸ばして、机とお腹の間にこぶし1つ分。肘は机に乗せます。字が小さいときは手首ではなく指で書き、行が変わるたびに紙を動かします。
これだけで、線の乱れの半分くらいは消えます。
練習の順番。ここが一番大事です
順番を守るだけで、同じ練習時間でも結果が変わります。目安の期間も添えます。
STEP1:ひらがな(1〜2週間)
46文字すべてではなく、自分が苦手な10文字だけを選んでください。書いた文章を眺めると、必ず「崩れている字」が目に付きます。「あ」「お」「す」「む」「ふ」「ゆ」あたりが苦手な方が多いです。8マスの用紙なら1枚で8文字、苦手な10文字は2枚で1周できます。
ひらがなのコツは、丸みと「結び」です。「す」「む」「ぬ」の結びの部分は、小さく、つぶれないように。そして、ひらがなは漢字より少し小さめに書きます。
STEP2:自分の名前(2〜3週間)
一生で一番多く書く文字です。ここが整うと、練習の効果を毎日のように実感できるので、続ける力になります。
名前のコツは、一画一画よりも字と字の大きさのバランスです。漢字は大きめ、ひらがなは小さめ。姓と名の間は半文字分あける。8マスの用紙に、右の列に姓、左の列に名を書くと、ちょうど1枚に収まります。住所は、字を小さくしていく段階(STEP4)で練習します。数字は他の字より少し小さめに書くと、全体が落ち着いて見えます。
STEP3:漢字の「基本形」(1ヶ月)
漢字は何千字もあるので、1字ずつ練習するのは現実的ではありません。代わりに、きれいに見える原則を覚えます。原則が身につくと、練習していない字までいっしょにきれいになります。
- 横線は、わずかに右上がり(6度くらい。上げすぎると幼く見えます)
- 線と線の間隔を等しく(「三」「目」「書」など、横線が多い字ほど効きます)
- 縦線はまっすぐ。字の中心を意識して、左右対称の字は中心線に乗せる
- へんは小さめ、つくりは大きめ(「持」「語」など)
- とめ・はね・はらいを最後まで書き切る。線の終わりが雑だと、字全体が雑に見えます
練習する字は、「書」「語」「様」「御」「東京都」など、自分がよく書く字から選んでください。用紙はまだ8マスのままで構いません。
STEP4:文章(2ヶ月目から)
一字一字が整ってきたら、文章での練習に移ります。ここで初めて、マスを小さくしていきます。8マスで形が取れていれば、小さい字は驚くほど簡単です。ただし一気に小さくせず、8マス→15マス程度→罫線ノート→普段の字、と段階を踏むとバランスが崩れません。文章で大切なのは、字そのものより大きさ・字間・行間です。
- 漢字を10とすると、ひらがなは8くらいの大きさ
- 字と字の間隔は均等に、行の間は字の大きさの半分以上あける
- 縦書きは中心をそろえ、横書きは字の下の線をそろえる
練習する文章は、味気ない例文より、声に出したくなる名文がおすすめです。俳句、百人一首、「雨ニモマケズ」のような詩は、短くて、書いていて飽きません。覚えてしまえば、お手本を見ずに書く練習にもなります。
上達を速くする、2つの習慣
① 書いたら、必ず見比べる。 1行書くごとに、お手本と自分の字を並べて、違いを3つ探してください。線の傾き、字の大きさ、余白。違いを言葉にできたら、次の1行でひとつだけ直します。上達が速いのは、たくさん書く人ではなく、よく見る人です。スマホでお手本と自分の字を撮って、画像を切り替えながら見比べるのもよく分かります。
② 3回連続でうまく書けたら、次の字へ。 同じ字を何十回も書くと、飽きて雑になります。「いい感じに書けた」が3回続いたら、その字は卒業です。たくさんの字と出会うほうが、共通のコツが体にたまって、独学は楽しく長く続きます。
そしてもうひとつ。月に1回、同じ文章を書いて日付を入れて残してください。 3ヶ月後に並べると、自分では気づかなかった変化がはっきり見えます。これが一番の励みになります。
横書きが苦手な人へ
仕事で書くのは、ほとんど横書きです。横書きは縦書きと違って、字の中心をそろえても整って見えません。
- 字の「下の線」をそろえる。横書きは下がそろうと一気に読みやすくなります
- 右上がりは縦書きより控えめに。上げすぎると行が右上に流れていきます
- ひらがなを小さめにして、漢字との差をつける
- 横線は、すっと引いて、最後に軽く止める。速く引くと線が細く、震えて見えます
横書きも、慣れるまでは大きめの字で練習してください。大きな字で下がそろえば、小さくしてもそろいます。
どのくらいで変わる?期間の目安
| 練習の対象 | 変化を感じるまで |
|---|---|
| 自分の名前 | 2〜3週間 |
| ひらがな | 1ヶ月 |
| 文章全体の印象 | 3ヶ月〜半年 |
| 普段のメモの字 | 半年〜1年 |
練習の時間は1日10分で十分です。長時間やるより、毎日少しずつのほうが、手が覚えます。
ひとつ知っておいてほしいのは、練習の字と普段の字は、しばらく別物のままだということです。これは普通のことで、諦める理由にはなりません。普段書くときに「いつもより少しゆっくり」と意識するだけで、練習の字が少しずつ普段の字に入ってきます。
続けるコツは、練習する場所と時間を決めてしまうこと。そして月に1通、手書きのはがきや手紙を誰かに出すこと。「書く理由」が外にあると、練習は自然と続きます。
よくある質問
Q. 左利きでも上達しますか?
もちろんです。紙を少し右に傾けて、手が書いた線を隠さない位置に置いてください。右上がりの横線は左利きだと書きにくいので、無理に上げず水平でも構いません。線の間隔と字の大きさがそろっていれば、十分にきれいに見えます。
Q. ボールペンで練習してはいけませんか?
最初は避けてください。ボールペンは滑りやすく、初心者には線を安定させるのが難しい道具です。まずフェルトペンで形を覚え、上手く書けるようになってからボールペンに移るほうが、遠回りに見えて一番早く上達します。万年筆も同じ順番で構いません。
Q. 練習帳やアプリだけで足りますか?
練習帳は「必要なページだけ」使えば役に立ちます。アプリはなぞり書きが中心なので、形を知るための補助と考えて、紙に自分で書く時間を必ず取ってください。
Q. 大人になってからでも本当に変わりますか?
変わります。大人には「なぜこの線はこう書くのか」を理屈で理解できる強みがあり、原則を知れば子どもより早く整うことも珍しくありません。大人が書道を始めるときの考え方は大人になってから書道を始める完全ガイドで詳しく書いています。
Q. 教室や通信講座は必要ですか?
まずは独学で3ヶ月やってみてください。それで伸び悩んだら、自分では気づけないくせを直してもらうために、教室や添削を検討する順番で十分です。教室の選び方は後悔しない書道教室の選び方【大人向け】、独学の考え方は書道は独学でどこまで上達する?にまとめています。
お手本はどこで手に入る?
書店のペン字練習帳は、肉筆のお手本が大きく載っているものを選んでください。ネット上の無料のお手本は、フォントを印刷しただけのものが多いので、線の入り方が見えるものを選びましょう。
書楽でも、書家が一枚一枚手で書いた硬筆のお手本をオンラインショップ(BASE)で販売しています。ひらがな・かきかた練習といった基本から、俳句・百人一首・「雨ニモマケズ」・「舞姫」まで。市販のお手本よりもかなり安くしていますので、大人の独学用としてもお使いいただけます。
まとめ。字は「順番」と「見る力」で変わる
大人のペン字は、大きなマスにペンで、①ひらがな→②名前→③漢字の基本形→④文章の順に、1日10分。書いたら見比べて、3回うまく書けたら次の字へ。この順番を守れば、3ヶ月後の自分の字は、今とは別物になっています。
字がきれいになると、書くことが少し楽しくなります。その楽しさが、一番の上達の理由です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。この記事が、少しでもあなたのお役に立てたなら嬉しいです。
